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「令和元年 厚生労働省 国民健康・栄養調査」によると、20歳以上で「脂質異常症が強く疑われる者」の割合は、男性25.0%、女性23.2%でした。
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国民健康・栄養調査の血液検査では、空腹時採血が困難であるため、脂質異常症の診断基準項目である中性脂肪による判定は行わず、HDLコレステロールが40mg/dL未満、もしくはコレステロールを下げる薬または中性脂肪(トリグリセライド)を下げる薬を服用している者。
脂質は、炭水化物や蛋白質と並び、体になくてはならない大切な栄養素のひとつです。
血液中に含まれる脂質を血中脂質といい、主なものはコレステロールと中性脂肪です。
コレステロールは細胞の膜を作る原料になるほか、ホルモンや胆汁酸などの原料にもなっています。また、中性脂肪は皮下や内臓などに貯えられ、必要なときに燃焼しエネルギー源となります。
通常、血中脂質は一定の量に保たれるよう調節されていますが、体の中で脂質がうまく処理されなくなったり、食事から摂取する脂質が多すぎたりして、血中脂質が基準値から外れることを、脂質異常症といいます。脂質異常症は、コレステロールと中性脂肪を測定することにより診断します。
LDLコレステロール | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
120~139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症** | |
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド | 150mg/dL以上 | 高トリグリセライド血症 |
Non-HDLコレステロール | 170mg/dL以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
150~169mg/dL | 境界域高non-HDLコレステロール血症** |
主なコレステロールには、LDLコレステロールとHDLコレステロールがあります。
コレステロールや中性脂肪は脂質(あぶら)であるため、血液中では馴染みやすいようにリポ蛋白という粒子となり、血液中に存在しています。
このリポ蛋白には、肝臓で作られたコレステロールを体全体に運ぶ役割を持つLDL(低比重リポ蛋白)と、体内の血管壁にたまったコレステロールを肝臓に運ぶ役割を持つHDL(高比重リポ蛋白)があります。それぞれの中に含まれるコレステロールの量が、LDLコレステロール、HDLコレステロール濃度として測定されます。
LDLコレステロールが多い場合には狭心症など、動脈硬化性疾患の発症が増加し、HDLコレステロールが多い場合にはその発症が減少することがわかっています。
そのため、LDLコレステロールは“悪玉”コレステロール、HDLコレステロールは“善玉”コレステロールと呼ばれています。日常生活で、LDLコレステロールを減らし、HDLコレステロールを増加させるように努めましょう。
脂質異常症には、遺伝によるものと、ほかの病気や薬剤、食習慣の欧米化や運動不足などの生活習慣や肥満など、二次的な原因によるものがあります。遺伝による脂質異常症患者さんは、生活習慣などに問題がある場合、脂質の値がさらに上がることがあるため注意が必要です。
脂質異常症は、普通は無症状で自覚症状がほとんどない場合が多いです。しかし、数値が特に高い場合には、まぶたやアキレス腱に脂肪がたまって腫れたり、角膜の周辺に白っぽい輪(角膜輪)があらわれることもあります。
脂質異常症になると、心臓や脳、足などの動脈の壁が厚くなったり、固くなったりする動脈硬化が起こりやすくなります。血管の内側にコレステロールなどがたまり、こぶ(プラーク)が厚くなったものをアテローム性動脈硬化といいます。アテローム性動脈硬化ができる仕組みを図に示します。血液中にコレステロールを運ぶLDLが増えると血管の内側が傷つきます。そして、血管の壁の中にLDLが入り込み酸化LDLになります。血管の壁の中の酸化LDLを異物とみなしてマクロファージが集まり、酸化LDLを次々に食べていき泡沫細胞となります。その結果、LDLに含まれていたコレステロールが血管の壁の中にたまっていき、プラークができます。プラークが大きくなると血流が悪くなり、酸素や栄養が送られている心臓や脳に症状が起こります。さらに大きくなるとプラークが破れ、血小板が集結して血栓ができ、血管がつまってしまいます。その結果、心筋梗塞や脳梗塞につながります。
性別、年齢、狭心症・心筋梗塞など心臓に血液を供給する冠動脈で血液の流れが悪くなり心臓に障害が起こる冠動脈疾患にかかっているか、喫煙や高血圧などの脂質異常症の危険因子の数や程度によって動脈硬化性疾患の起こりやすさが異なります。そのため、患者さんによって目標とする脂質の値が異なるので、患者さんに応じた目標値を設定し、治療を進める必要があります。かかりつけ医の先生に相談して、治療目標値を決めましょう。
冠動脈疾患にかかったことのない脂質異常症患者さんでは、まず禁煙、食事、運動などの生活習慣の改善を行います。また、肥満がある患者さんでは、体重の3%を目標として減量を行います。それでも脂質の値が改善しない場合は、薬物療法での治療を検討します。
冠動脈疾患にかかったことのある脂質異常症患者さんでは、生活習慣の改善および肥満がある患者さんの体重の3%減量とあわせて薬物療法を行います。
食事療法には、脂質異常症や動脈硬化性疾患の予防・治療の効果があります。
患者さんの脂質異常のタイプによって気をつける食事の注意点は異なります。
コレステロールや動物性の脂肪に含まれている飽和脂肪酸、マーガリンなどに含まれているトランス脂肪酸などを多く含む食品は、LDLコレステロールを増やしてしまうので摂取量を控えましょう。一方、食物繊維や野菜、海藻、大豆製品や玄米、ライ麦パンなどに含まれる植物ステロールを含む食品はLDLコレステロールを減らすことができるので、摂取量を増やすようにしましょう。
炭水化物や糖質を多く含む菓子類や飲み物、アルコールを控えると中性脂肪は減らすことができるので、摂取量を控えましょう。一方、青魚に含まれる脂肪は中性脂肪を減らすことができるので、摂取量を増やすようにしましょう。
エネルギー摂取量や糖質摂取量を減らし、体脂肪量が減少するとLDLコレステロール、中性脂肪を減らすことができるので、これらも気をつけましょう。
過度のアルコール摂取や食塩の摂取は血圧の上昇につながり、脳卒中などの動脈硬化性疾患につながります。食塩の摂取を控えるなど血圧の上昇を抑え、動脈硬化性疾患を予防しましょう。
LDLコレステロールの高い患者さんの1日のコレステロールの摂取量は200mg未満が望ましいとされています。1日に摂取する食品や料理、量を把握して、コレステロールの摂り過ぎに注意し、食事療法を無理なく長く続けるようにしましょう。
ラードやバターなどの動物性の脂は控える。例えば、調理に使うバターはオリーブ油に変えるなどの工夫を
食物繊維はコレステロールの吸収を抑える働きがある
抗酸化作用のあるビタミンA、C、Eは、コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化を予防する働きがある
食べすぎに注意する
摂取エネルギーが過剰になって体重が増えると、HDLコレステロールが下がり、LDLコレステロールが上がる一因になる
運動療法は脂質の代謝を改善し、動脈硬化性疾患の予防や改善に効果があります。
脂質異常症患者さんでは、ウォーキング、速歩、水泳、エアロビクスダンス、スロージョギング(歩くような速さのジョギング)、サイクリング、ベンチステップ運動などの有酸素運動をメインに、毎日合計30分以上を目指して行いましょう。通常の速さのウォーキング程度の強さか、それ以上の強さの運動がおすすめです。
ただし、患者さんの状態や体力に合わせた強さの運動から始める必要があります。冠動脈疾患や呼吸器疾患など、持病のある患者さんや高齢者の患者さんは、かかりつけ医の先生に相談し運動療法を行いましょう。
種類 | 有酸素運動を中心に実施する(ウォーキング、速歩、水泳、エアロビクスダンス、スロージョギング、サイクリング、ベンチステップ運動など) |
強度 | 中強度以上を目標にする(中強度とは通常速度のウォーキングに相当する運動強度) |
頻度・時間 | 毎日合計30分以上を目標に実施する(少なくとも週に3日は実施する) |
その他 | 運動療法以外の時間もこまめに歩くなど、できるだけ座ったままの生活を避ける |
生活習慣の改善で脂質管理が不十分な場合や、冠動脈疾患既往のある患者さんには、薬物療法が行われます。薬剤は患者さんの状態に応じて選択されます。
LDLコレステロールが高い患者さんの治療には、まずHMG-CoA還元酵素阻害薬の使用が勧められています。1種類の薬剤でLDLコレステロールが十分に管理できない場合は、複数の薬剤を使用することがあります。
治療薬の種類 | 作用 |
HMG-CoA還元酵素阻害薬 | 肝臓でコレステロールが作られるのを抑え、血液中のLDLコレステロールを減少させる。 |
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 | 腸でのコレステロールの吸収を防ぎ、血液中のLDLコレステロールを減少させる。 |
陰イオン交換樹脂 | コレステロールは胆汁酸へ変換され排泄された後、コレステロールとして再利用される。胆汁酸やコレステロールを吸着してLDLコレステロールを減少させる。 |
プロブコール | コレステロールが胆汁酸になるのを助け、LDLを分解しやすくすることでLDLコレステロールを減少させる。LDLコレステロール低下作用に加え、抗酸化作用も有する。 |
PCSK9阻害薬 | LDLコレステロールの肝臓への取り込みを増加させ、血液中のLDLコレステロールを減少させる。 |
MTP阻害薬 ※ | 体内での脂質が作られるのを抑え、LDLコレステロールを減少させる。 |
フィブラート系薬剤 | 肝臓での中性脂肪の産生を抑え、コレステロールの排泄を増やし、中性脂肪やコレステロールを減少させる。 |
選択的PPARαモジュレーター | 脂質代謝遺伝子を調節して脂質の代謝を改善し、血液中の中性脂肪を減少させ、HDLコレステロールを増加させる。 |
ニコチン酸誘導体 | 中性脂肪の分解を促進して低下させる。コレステロールの排泄を促進させる。 |
n-3系多価不飽和脂肪酸 | 青魚などに含まれる成分。中性脂肪を減らし、血小板の凝集を抑えて、血栓ができるのを抑える。 |
1988年3月 | 千葉大学医学部医学科卒業 |
1996年2月 | スウェーデン国立ウプサラ大学大学院博士課程修了(PhD) |
1998年3月 | 千葉大学大学院博士課程修了(医学博士) |
同年4月 | 日本学術振興会特別研究員 |
2009年5月 | 千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学講座(旧第二内科)教授 |
千葉大学医学部附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 科長 | |
2011年4月 | 千葉大学医学部附属病院 副病院長 併任 |
2015年4月 | 千葉大学大学院医学研究院 副研究院長 併任 |
2019年1月 | 研究領域名変更に伴い、内分泌代謝・血液・老年内科学 教授 |
2020年4月 | 千葉大学医学部附属病院 病院長、千葉大学 副学長 |
2021年3月 | 慶應義塾大学大学院経営管理研究科EMBAプログラム修了(MBA) |