60代・70代からはじめる
フレイル予防・対策講座
高齢者の低栄養防止やフレイル予防対策に!

監修:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
理事長 荒井秀典先生
国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部
研究員 木下かほり先生
04
60代・70代からはじめる
フレイル予防・対策講座
高齢者の低栄養防止やフレイル予防対策に!
監修:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
理事長 荒井秀典先生
国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部
研究員 木下かほり先生
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日常的な医療や介護に依存せずに自立して生活できる期間のことを「健康寿命」と言います。フレイルとは心身機能が低下し、日常生活を送る上で様々な健康障害が生じやすくなった状態のことで、健康寿命が損なわれやすくなっているサインとも言えます。
心身機能とは、手足の動きなどの運動機能、精神のはたらきなどの精神機能、視覚・聴覚などの感覚器機能など全身の機能を指しますが、なかでも運動機能の低下を防ぎ、自立した生活を送るために重要なのが筋肉です。筋肉はたえず合成と分解を繰り返しています。
ヒトの骨格筋量は30歳代から年間1~2%ずつ減少し、80歳頃までに20歳代から比べ約30~40%の筋肉が失われると言われています(※1)。また栄養不足で分解される量のほうが多くなると、この減少率はさらに高くなります。一定量の筋肉を保つためには、筋肉の材料となるタンパク質が不足しないよう、しっかり摂取することがカギとなります。
実際、日本人高齢女性を対象とした調査によると、タンパク質摂取量が1日約70g以上の人では、フレイルのリスクが低くなることが報告されています(※2)。
(※1)荒井秀典 「世界のサルコペニア研究の最新知見」 日本食生活学会誌 第29巻 第2号(2018):81-84
(※2)Kobayashi et al. Nutrition Journal 2013,12:164 表3より、1日の総タンパク質摂取量とフレイル率の数字を抽出して作成
(フレイルのリスクは63g未満の群を1とした場合の相対値)
ところが、日本人のタンパク質摂取量はここ20年で大幅に減少しています。1995年には1日の平均摂取量が81.5gだったのが、2019年の国民健康・栄養調査では71.4gとおよそ10%も減っているのです。
出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成7年~令和元年)
※ 2017年~2019年の「70歳以上」の値は「70~79歳」と「80歳以上」の値の平均値を算出
日本サルコペニア・フレイル学会が発表したガイドラインによると、筋肉の量を維持するために必要なタンパク質の量は、体重1kgあたり1g以上(体重60kgの人なら60g以上)を推奨しています(※3)。 筋肉は、タンパク質を摂取した後に合成反応が起こりますが、成人と高齢者の骨格筋合成能を比較すると、高齢者ではより多くのタンパク質の摂取が必要な可能性があり、欧米人を対象にした報告では、毎食25-30g程度のタンパク質摂取が望ましいとされています(※4、5)。アジア人と欧米人では体格が違うので必ずしも同等量が必要かどうかは分かりませんが、毎食、十分なタンパク質を摂取することが大切なことは事実です。地域の高齢者を対象とした調査では、フレイルの人は健康な人と比べて朝食のタンパク質の摂取量が少なかったことが報告されています(※6)。
(※3)サルコペニア診療ガイドライン作成委員会. サルコペニア診療ガイドライン 2017. 日本サルコペニアフレイル学会; 2017.
(※4)Volpi E, Mittendorfer B, Rasmussen BB, Wolfe RR. The response of muscle protein anabolism to combined hyperaminoacidemia and glucose-induced hyperinsulinemia is impaired in the elderly. J Clin Endocrinol Metab 2000; 85 (12):4481-4490.
(※5)Paddon-Jones D, Rasmussen BB. Dietary protein recommendations and the prevention of sarcopenia. Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2009; 12(1):86-90.
(※6)Bollwein J, et al:Distribution but not amount of protein intake is associated with frailty: a cross-sectional investigation in the region of Núrnberg. Nutr J 12:109,2013
タンパク質25gに相当する食品量は、種類や部位にもよりますが、脂の少ない肉なら130gくらい、イワシなど骨ごと食べる魚なら1.5尾分に相当します。
毎日の食事で「1食あたり手の平1枚分の肉や魚をしっかり食べる」が、筋肉を減らさないタンパク質摂取のコツです。
出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
とは言え、毎回タンパク質たっぷりの食事をきちんと作ることはハードルが高いかもしれません。たとえば食べきれないため肉や魚などの生鮮食品の購入を控えたり、膝の痛みや筋力の低下などから台所に立つのが少し大変になったり、料理をすることが億劫になったりして食べる食品に偏りが出てしまうこともあるでしょう。
望ましい食生活を長く続けられるような工夫ができると良いですね。次にご紹介する、作る手間をできるだけ省いたクイックメニューを活用したりして、できる範囲で取り組んでいきましょう。
電子レンジや缶詰を活用する、包丁を使わないなど、
料理に不慣れな男性でも挑戦しやすい高タンパクレシピです。
参考:「60 歳からの筋活ごはん」(女子栄養大学出版部)
監修:荒木厚, 府川則子