60代・70代からはじめる
フレイル予防・対策講座
高齢者の低栄養防止やフレイル予防対策に!

監修:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
理事長 荒井秀典先生
国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部
研究員 木下かほり先生
03
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フレイル予防・対策講座
高齢者の低栄養防止やフレイル予防対策に!
監修:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
理事長 荒井秀典先生
国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部
研究員 木下かほり先生
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滑舌が悪くなる、固いものが噛めない、食べこぼしたりむせたりすることが増えた…。高齢になるとよく見られる現象です。一見なんでもないように感じられる些細な口の機能の衰えですが、近年「オーラルフレイル」と呼ばれ、注目されています。
噛む力が弱くなると摂取する食品のバリエーションが減り、食事のバランスが偏りやすくなります。食事の楽しみも減り、食欲の低下につながるなど、低栄養のリスクが高まります。慢性的な低栄養はフレイルの原因となるため、オーラルフレイルはフレイルを加速させる因子のひとつと言われています。
また、滑舌が悪くなると他人とのコミュニケーションに支障をきたすようになり、人と会ったり外出したりすることが億劫になり、高齢者のQOLにも大きく影響します。オーラルフレイルを予防、改善することが健康寿命を延ばす大きな鍵となるのです。
フレイルを予防するにはオーラルフレイルの段階で気づき、適切な対処をすることが重要です。しかし、こうした些細な口の衰えは日々少しずつ進行していくため気づきにくく、放置されて悪化しがちです。次の問診票(※1)で3点以上の「危険性あり」となった人は早めに専門家に相談しましょう。
(※1)作成者:東京大学高齢社会総合研究機構 田中友規、飯島勝矢
(※2)歯を失ってしまった場合は、義歯等を適切に使ってかたいものをしっかり食べることができるよう治療することが大切です。
噛みにくさなどの自覚症状があり、肉、野菜など食べにくい食材がある場合は、栄養が偏りやすくなります。症状が改善するまでは、食べやすいよう調理で工夫をし、栄養不足にならないようにしましょう(「コラム:いつもの料理を食べやすくする食事の工夫」参照)。 同時に、虫歯や歯周病を放置するなど、口の健康への関心の低下はオーラルフレイルにつながります。日頃から歯磨きや定期的な歯科受診で口の中を健康に保つなど、口腔ケアへの意識を高めておくことが大切です。
適切な手入れをせずに、柔らかいものばかり食べていると噛む力が弱くなるばかりか、唾液の分泌が減少し、口腔環境も悪化します。歯ごたえのあるものを積極的に取り入れるなど、食事を通して噛む力を鍛えることもオーラルフレイルの予防につながります。
「今まで食べていた料理が食べにくくなった…。」と感じても、食事の楽しみが減ってしまうと悲観することはありません。そんなときは、切り方や下処理にひと工夫してみましょう。ほんのひと手間で噛みやすく、飲み込みやすくなり、いつもの料理もぐっと食べやすくなります。
天ぷらは具材ごとに切り方や下処理を工夫します。また、サクサクした衣が食べにくい場合は、天つゆに浸してしっとりさせたり、サッと煮たりするとよいでしょう。また、つゆにとろみをつけると飲み込みやすくなります。
◎イカやえび
表面に細かく切り目を入れる
◎なす
5〜8mm厚さの斜め薄切りにし、皮を切るように放射状に切り込みを入れる
◎青じそ
葉脈に3か所ほど切り目を入れる
◎玉ねぎ
繊維に垂直に。厚さは5mm幅程度が食べやすい
繊維質の多いごぼうは細切りがおすすめ。3mm厚さの斜め切りにしてから3mm幅の細切りにすると繊維が断ち切られ、食べやすくなります。人参も同様に切ります。
また、炒め煮だけだとなかなか柔らかくならないので、圧力鍋を使うか、炒めた後にだしで煮るなどして、柔らかくしてから味つけします。
肉はやわらかくて食べやすい部位を選びましょう。牛肉ならヒレやサーロイン、豚肉ならももやロース、鶏肉はささ身や胸肉がおすすめです。赤身と脂身の間の筋は固くて噛み切りにくいので、調理前に包丁で切り目を入れて切っておきます。ステーキなどはさらに表面に縦横に切り目を入れておくと食べやすくなります。
また、にんにくやしょうが、パイナップル、キウイフルーツにはタンパク質分解酵素が含まれているので、生のまますりおろし、しょうが焼きやから揚げなどの漬け汁に加えると肉がやわらかく仕上がります。
<参考>
『絵で見てわかる かみやすい飲み込みやすい食事のくふう』
(女子栄養大学出版部)
監修・食事指導:山田晴子
絵:横田洋子