60代・70代からはじめる
フレイル予防・対策講座
高齢者の低栄養防止やフレイル予防対策に!

監修:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
理事長 荒井秀典先生
国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部
研究員 木下かほり先生
01
60代・70代からはじめる
フレイル予防・対策講座
高齢者の低栄養防止やフレイル予防対策に!
監修:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
理事長 荒井秀典先生
国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部
研究員 木下かほり先生
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加齢に伴い、筋肉の力が落ちるなど体の機能や、内臓などの生理的な機能が低下して、疲れやすく動けなくなる、食欲が湧かないなどの、心身の活力が低下した「虚弱」な状態は、近年では「フレイル」と呼ばれます。
フレイルの状態ではまだ健康を維持していますが、多くの高齢者がこのフレイルの段階を経て要介護状態になることがわかっています。
現在、日本における65歳以上の高齢者の割合は28.7%、実に4人に1人が高齢者という計算になりますが(※1)、この高齢者全体の約12%がフレイルに該当しており、その割合は年齢を重ねるごとに大きくなっていきます(※2)。
今、フレイルが注目されているのは、フレイルの状態であれば、心身ともにある程度回復する力が残っており、適切なケアにより、健康な状態に回復する可能性があるからです。
そして、フレイルの予防・改善に特に効果があるとされているのが「食事」によるタンパク質を中心とした栄養摂取と筋力トレーニングなどの「運動」なのです。
> フレイルについての詳しい情報や「セルフチェックシート」はこちらから
(※1)総務省統計局,2020年9月15日現在推計(※2)Shimada H et al: J Am Med Dir Assoc 2013
1947年〜2015年は「国勢調査」、2019年、2020年は「人口推計」
注1)2019年、2020年は9月15日現在、その他の年は10月1日現在
2)国勢調査による人口及び割合は、年齢不詳をあん分した結果
3)1970年までは沖縄県を含まない
フレイルの有症率は65歳以上の高齢者全体では11.5%(予備軍32.8%)であった。加齢に伴い有症率の増加が認められた。
出典: Shimada H et al: J Am Med Dir Assoc 2013【Table1】
フレイル対策として摂取した方がよい栄養素には、筋肉の合成に必要な「タンパク質」、骨の形成に欠かせない「カルシウム」、そしてカルシウムを吸着させるのに必要な「ビタミンD」などがあります。タンパク質とはアミノ酸が結合したもののことですが、中でも「必須アミノ酸」は自分の体の中で合成できないので、食事で摂取する必要があります。
人は高齢になるにつれ、筋肉の量がどんどん減っていきます。筋肉量の減少を予防するタンパク質(アミノ酸)を十分に摂るには、朝昼晩の3食をしっかり食べることが大切です。食事を抜くと、1日に必要な栄養素を摂ることが難しくなるので、時間をきめて、一定以上の量を食べるよう心がけましょう。また、タンパク質はただ摂るのではなく、運動をすることによってより効果的に筋肉をつくることができるようになるので、食事と運動、どちらも欠かさず行う必要があります。
出典:谷本芳美ほか. 日老医誌2010;47:52-57 より引用改変
ただし高齢になると、食べ物が噛みにくくになったり、飲み込みにくくなったり、さらには食事を作ること自体が億劫になったりと、どうしても1食の食事量が減ってしまうことがあります。また、食べてはいても、麺類や菓子パンなどの炭水化物ばかりを好んで食べるなど、栄養バランスが偏ってしまっている方も多く見受けられます。エネルギーとタンパク質を十分に摂れなくなると、筋肉や脂肪に蓄えた“貯金”が減り、体重が減ってきてしまうので要注意です。特にタンパク質は筋肉の素になるため大切です。
そこでおすすめしたいのが、運動のあとの「間食(おやつ)」です(※3)。タンパク質は、運動によって筋肉をつくる力が高まる時間(運動直後)に、血液中にアミノ酸が豊富になるように摂取するのが効果的であることがわかっています(※4)。特に積極的に摂ってほしいのが、タンパク質が豊富な卵や豆類(小豆など)を使ったおやつです。また、牛乳やヨーグルトなどの乳製品を使ったものは、タンパク質だけではなく、カルシウム補給にも最適です。ただし、砂糖や脂肪、塩分の量に気を付けて、食べ過ぎないようにしましょう。
フレイル対策には、正しい食習慣が大切です。ただし、その「正しく」食べること自体にストレスを感じてしまっては、身体だけではなく、精神的にも逆につらくなってしまいます。今回紹介した間食など、おいしく食べられるものから賢く栄養をとるコツを取り入れながら、無理せず楽しい食事を心がけましょう。
(※3)糖尿病や腎機能に障害のある方など食事療法が必要な方は、医師や管理栄養士に相談ください。
(※4)参考文献:岡村浩嗣「市民からアスリートまでのスポーツ栄養学」
※ところてん突きが無ければ、包丁で細く切る。