フレイルを予防する食事 監修・解説|
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター理事長
荒井 秀典
低栄養の状態が問題
どのような食事が良いのでしょうか?
フレイルであっても、食事や運動などの日常生活で適切なケアをすることによって、進行を遅らせ、要介護状態に陥るのを延ばし、「健康寿命」を維持できることがわかっています。1)
加齢や疾患による筋力や筋肉量の減少をきっかけとして、活動が低下したり、食欲が減退します。これらが慢性化すると、低栄養の状態となり、フレイルが進行します。
フレイルを予防するための、食事における適切なケアとは、フレイルの状態であっても、プレフレイルの状態であっても、筋肉の合成に必要なタンパク質や、骨の形成に欠かせないカルシウム、カルシウムを吸着させるのに必要なビタミンDやその他のビタミン、ミネラルなどが摂取できる食事を心がけることです。
そのためには、まずは、あなたに必要な摂取エネルギー量(カロリー)や、栄養素の量を知ることからはじめてみましょう。
1) 『健康長寿教室 テキスト』(国立長寿医療研究センター)P.2より
食事対策のポイント
エネルギーとタンパク質などの摂り方を知りましょう。
まず、あなたが1日に摂取すべきエネルギー量の計算方法を見てみましょう。
1日に摂取すべきエネルギー量の計算方法
身長1)(m)× 身長(m)× 222) × 身体活動レベル3)
=1日の適正なエネルギー量(kcal)
例)1.6m × 1.6m × 22 × 30 = 1,680kcal
1) 身長160cmの方は1,6、155cmの方は1.55です。
2) BMIの理想値:(70歳以上では、21.5~24.9、50~69歳は20.0~24.9、18~49歳は18.5~24.9)
3) 低い(23~30kcal)
- 低い
- 23~30
70歳以上:21~25 - 生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合
- 普通
- 25~35
70歳以上:23~30 - 座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買い物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合
- 高い
- 30~38
70歳以上:25~35 - 移動や立位の多い仕事のへの従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣を持っている場合
厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2015年版)』より
推定エネルギー必要量(kcal/日)参考表
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル* | I | II | III | I | II | III |
0~5ヶ月 | - | 550 | - | - | 500 | - |
6~8ヶ月 | - | 650 | - | - | 600 | - |
9~11ヶ月 | - | 700 | - | - | 650 | - |
1~2歳 | - | 950 | - | - | 900 | - |
3~5歳 | - | 1,300 | - | - | 1,250 | - |
6~7歳 | 1,350 | 1,550 | 1,750 | 1,250 | 1,450 | 1,650 |
8~9歳 | 1,600 | 1,850 | 2,100 | 1,500 | 1,700 | 1,900 |
10~11歳 | 1,950 | 2,250 | 2,500 | 1,850 | 2,100 | 2,350 |
12~14歳 | 2,300 | 2,600 | 2,900 | 2,150 | 2,400 | 2,700 |
15~17歳 | 2,500 | 2,850 | 3,150 | 2,050 | 2,300 | 2,550 |
18~29歳 | 2,300 | 2,650 | 3,050 | 1,650 | 1,950 | 2,200 |
30~49歳 | 2,300 | 2,650 | 3,050 | 1,750 | 2,000 | 2,300 |
50~69歳 | 2,100 | 2,450 | 2,800 | 1,650 | 1,900 | 2,200 |
70歳以上** | 1,850 | 2,200 | 2,500 | 1,500 | 1,750 | 2,000 |
妊婦***(付加量) | ||||||
初期 | +50 | +50 | +50 | |||
中期 | +250 | +250 | +250 | |||
後期 | +450 | +450 | +450 | |||
授乳婦(付加量) | +350 | +350 | +350 |
* 身体活動レベルは、低い、ふつう、高いの3つのレベルとして、それぞれI、II、IIIで示しています。
** 主として70~75歳ならびに自由な生活を営んでいる対象者に基づく報告から算定しています。
*** 妊婦個々の体格や妊娠中の体重増加量、胎児の発育状況の評価を行うことが必要です。
注1:活用にあたっては、食事摂取状況のアセスメント、体重およびBMIの把握を行い、エネルギーの過不足は、体重の変化またはBMIを用いて評価してください。
注2:身体活動レベルIの場合、少ないエネルギー消費量に見合った少ないエネルギー摂取量を維持することになるため、健康の保持・増進の観点からは、身体活動量を増加させる必要があります。
厚生労働省の資料では70歳以上の方で、「普通」の身体活動レベル(座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買い物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合)で男性の推定エネルギー必要量が2,200kcal、女性が1,750kcalと示されています。まずは、1日に必要なカロリーは、「普通」の身体活動レベルでそのくらいだと覚えておきましょう。
次に筋肉をつくるために必要な、肉・魚・卵・大豆製品などで摂取できるタンパク質の摂取量について見ていきます。食が細く、必要なカロリーが摂取できていない場合には、タンパク質は意識的に摂っていてもエネルギーとして使われてしまい、筋肉合成に使われません。また、夕食に偏らず、3食で均等に摂取し、さらに運動することで筋肉がつくりやすくなることがわかっています。
日本人の食事摂取基準によるタンパク質の推奨量(g/日)
厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2015年版)』では、タンパク質の推奨量として、30歳以上の男性で60g/日、女性で50g/日を掲げています。
例えば、かつおの刺身100g中のタンパク質は25.8g、にわとりささ身80g中のタンパク質は18.4g、豚もも肉80g中のタンパク質は16.4g、ゆで卵1個(60g)のタンパク質は7.7gです。植物性タンパク質では、木綿豆腐100g中のタンパク質は6.6g、納豆1パック(40g)のタンパク質は6.6gです。
かつおの刺身(100g)
タンパク質:25.8gにわとりささ身(80g)
タンパク質:18.4g豚もも肉(80g)
タンパク質:16.4gゆで卵1個(60g)
タンパク質:7.7g木綿豆腐(100g)
タンパク質:6.6g納豆1パック(40g)
タンパク質:6.6g
カルシウム、ビタミンDの摂取目標量
フレイル予防に必須の栄養素としては、筋肉と骨の機能を維持するタンパク質の他に、カルシウム、ビタミンDが挙げられます。ビタミンDはカルシウムの吸収に関わる栄養素のため、カルシウムと共に骨粗しょう症の食事療法にも必須ですが、『日本人の食事摂取基準(2015年版)』によると1日のカルシウム摂取目標量は650~800mgで、上限は2,500mgです。ビタミンDの摂取目標量は5.5μgで上限は100μgです。ただし、食塩相当量は男性の場合8.0g未満、女性の場合7.0g未満が推奨されていますので、塩分を摂りすぎないよう、味付けや調味料には注意が必要です。
カルシウムを多く含む食品(100gあたりの含有量)
牛乳
110mgわかさぎ
450mg水菜
210mg菜の花
170mgモロヘイヤ
260mg焼き豆腐
150mgがんもどき
270mgひじき(油いため)
110mg
ビタミンDを多く含む食品(100gあたりの含有量)
さけ
32.0μgまいわし
32.0μgさんま
14.9μgうなぎ
18.0μgきくらげ(ゆで)
8.8μg- memo
- ビタミンDは、食事で摂取するほか、屋外で活動して日光を浴びることによって、皮膚でつくられます。
栄養価は文部科学省『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』を参照
フレイル予防の代表的な栄養素であるタンパク質、
カルシウム、ビタミンDの必要摂取量と多く含む食材を見てきましたが、
どうでしょうか?
あなたの食事では、これらは足りているでしょうか?
また、ごはん、パン、うどんなどの炭水化物や
特定の栄養素に偏った食事をしていませんか?
栄養バランスが良い献立
eヘルシーレシピはあなたの管理栄養士です。
eヘルシーレシピでは、あなたの性別、生まれた年、身長、体重を入力することで、 1日に必要なエネルギー量(カロリー)を自動的に算出します。また、そのエネルギー量で1日に必要な栄養素が摂取できる、栄養バランスの良い1週間献立*を提案しています。
まずは、栄養バランスの良い食事のパターンを見てください。たとえば、カロリー1600kcal台でこのような献立で、1日の栄養素の摂取目標量をクリアできます。
*1週間献立の平均値が1日に必要な摂取量を満たしています。
朝 食
胚芽ご飯 150g
251kcal菜の花のサッと煮
121kcal卵とおろしの出会い
117kcalいんげんとれんこんのごま和え
38kcal煮干ふりかけ
12kcal
昼 食
イカ納豆の冷製パスタ
352kcal十穀おにぎり 50g
80kcal絹さやときのこのチーズ炒め
63kcalしろ菜のわさびマヨネーズ和え
49kcal
夕 食
胚芽ご飯 175g
292kcalサーモンのさっぱり焼き
108kcalふきと油揚げの煮物
52kcalカルシウムたっぷり汁
80kcalキウイ 50g
27kcal
この献立(朝食・昼食・夕食)で摂取できる栄養価
- エネルギー量1642kcal
- たんぱく質81.3g
- 脂質36.8g
- 炭水化物239.3g
- 食物繊維23.0g
- カリウム3463mg
- カルシウム707mg
- マグネシウム408mg
- 鉄11.0mg
- 食塩相当量5.7g
- ビタミンA563μg
- ビタミンD24μg
- ビタミンE8.8mg
- ビタミンB11.3mg
- ビタミンB21.5mg
- ビタミンB61.9mg
- ビタミンB127.9μg
- ビタミンC190mg
- コレステ
ロール359mg - ナトリウム2251mg
- リン1312mg
- 亜鉛9.4mg
- 銅1.6mg
- ナイアシン20.7mg
- 葉酸653μg
eヘルシーレシピでは、現在、予防したい生活習慣病を選ぶことによって、目的に合った栄養バランスの良い毎日の献立を提案しています。また、提案されている料理をカロリーや食材が似ている別の料理に「変更」することも可能です。
食材や料理メニューで検索しても、和・洋・中、実にさまざまな料理があるので、お好きな料理の栄養価を見ながら、献立をつくることにも挑戦できます。
今後、必要栄養素の摂取に的を絞ったフレイル予防のレシピを中心に開発を続け、一週間献立の提案も充実させていく予定です。
フレイル予防のレシピ
大事な栄養素を摂取できるレシピをご紹介します。
ここでは、管理栄養士がフレイルを予防する栄養素摂取のために開発したレシピの一部を見ていきましょう。
カルシウム・ビタミンD多めのレシピ
きくらげと小松菜のピーナッツ炒めレシピ番号:41060
こりこりとした食感が楽しいきくらげには、ビタミンDやカルシウム、食物繊維などが含まれています。これにカルシウムやビタミンCが豊富な小松菜と、ビタミンEやB群を含むピーナッツを組み合わせたので、おいしくて栄養的にも優れています。
- エネルギー量179kcal
- カルシウム127mg
- ビタミンD3.4μg
タンパク質・カルシウム多めのレシピ
鶏手羽と黒豆のレンジ炒めレシピ番号:41091
黒豆はポリフェノールを含んでいる上、アミノ酸バランスも優れています。動物性の肉類などと組み合わせて使うことで、必要な栄養をバランスよく摂取することができます。
- エネルギー量196kcal
- タンパク質16.1g
- カルシウム196mg
くるみ風味の魚介と青菜のミルク煮レシピ番号:41023
牛乳のカルシウムが料理で摂れるミルク煮は、成長期のお子さんや骨粗しょう症が気になる方におすすめのおかず。粗くすりつぶしたクルミを加えて、カルシウム量をさらにアップ。
- エネルギー量291kcal
- タンパク質17.9g
- カルシウム245mg
魚介のクリームパスタレシピ番号:01007
白いクリームソースに、シーフードとブロッコリーの彩りがきれいなパスタです。香りが引き立つしめじも加えます。タンパク質にカルシウム、ビタミンDも補給できます。
- エネルギー量455kcal
- タンパク質26.0g
- カルシウム195mg
ビタミンD・A・カルシウム多めのレシピ
うなぎとにらのかぼす風味のぬた レシピ番号:41098
カルシウムと、カルシウムの吸収を促すビタミンDを豊富に含むうなぎ。ぬたは一般的に酢味噌で作りますが、酢の代わりにかぼすを使って、濃厚なうなぎをさっぱりいただくおかずにします。かぼすが手に入らないときは、レモンやゆずで代用して。
- エネルギー量150kcal
- ビタミンD7.6μg
- ビタミンA745μg
- カルシウム92mg
よくある質問
栄養摂取に関して知っておきたいQ&Aと解説です。
Q. 筋肉をつくるには?
A. 食べること、運動することが必要です
筋肉をつくるには
①栄養(タンパク質のアミノ酸)
②運動(筋肉の収縮)
③インスリンの刺激に対しての反応
が必要です。
加齢とともに③の反応が低下するといわれていますが、たとえ、そうなったとしても、特にアミノ酸の摂取が筋肉合成を促すので、朝昼晩一定以上のタンパク質を食事等で摂取することが重要となります。
Q. 筋肉減少を予防するタンパク質の摂取方法とは?
A. 3食バランスよく食べることです
朝・昼・夜の食事でタンパク質を均等に摂りたいところですが、どうしても、夕食だけで摂ることが多くなってしまいがちです。フレイル予防には、発想を変えて、朝と昼の活動している時間こそ、タンパク質を多めに摂れるような一日の献立を心がけましょう。エネルギーの適正量摂取とタンパク質摂取のためには、「おやつ(間食)」も利用しましょう。食事の間に運動をすることによって、さらに筋肉が合成されやすくなるため、運動前後のおやつは効果的です。
Q. 食事の量を食べられない場合は?
A. 「おやつ」の活用がおすすめです
「おやつ」とは間食のことで、お菓子でなくてもよいのです。1日の栄養バランスで足りなさそうなものを思い浮かべて、カロリーにも気をつけて、習慣に取り入れてみましょう。運動の前や後にいただくことがポイント。外出先から戻った時の「ほっと一息」の時間にも、季節の果物なども使って、手づくりおやつを楽しみましょう。eヘルシーレシピには「おやつ」もいろいろと揃えています。
タンパク質とカルシウムを意識したおやつ
高野豆腐のフレンチトーストレシピ番号:31073
- エネルギー量135kcal
- タンパク質6.7g
- カルシウム66mg
タンパク質を意識したおやつ
かぼちゃのプリンレシピ番号:21022
- エネルギー量119kcal
- タンパク質4.5g
カルシウムを意識したおやつ
えびスナックレシピ番号:09317
- エネルギー量39kcal
- カルシウム225mg
小松菜のパウンドレシピ番号:09309
- エネルギー量111kcal
- カルシウム79mg
ビタミルクレシピ番号:09914
- エネルギー量90kcal
- カルシウム75mg