症状別レシピ
①ダンピング症候群
本来、食べたものは胃の中で混ぜ合わされ、少しずつ腸に移動しますが、胃を切除したことで未消化のまま急に腸に流れ込み、それによって様々な苦しい症状が起こります。これがダンピング症候群です。冷や汗、動悸、全身倦怠感、頭痛などが主な症状で、食事直後に起きる「初期ダンピング症候群」と、食事から2~3時間後に起きる「後期ダンピング症候群」があります。 ダンピング症候群は起きてしまってから対処するのではなく、起きないように日々生活していくことが大切です。
初期ダンピング症候群は、炭水化物が腸で急に吸収され、高血糖状態になったり、腸内に水分が移動したりすることが原因で起こります。一度に多量の食事をとるとダンピング症候群を起こしやすくなるので、1日5~6食に分けるなど食事は少量ずつ、ゆっくりとよく噛んで食べるようにします。急激に血糖値を上げるような甘い食べ物は注意が必要です。また、食べ物が急速に腸に送られないよう、食事中の水分も控えめにしましょう。
後期ダンピング症候群は、食後急激に上がった血糖値を下げようとするホルモンの働きにより、血糖値が下がりすぎて低血糖状態になってしまうことが原因で起こります。予防するには初期ダンピング症候群と同じく、一度の食事は少量にし、血糖値を急激に上げないようにすることがポイントです。後期ダンピング症候群がしばしば出る人は、食後2時間くらいに飴やビスケット、甘い飲み物などをとって、あらかじめ低血糖を予防することも有効です。
参考:国立がん研究センター「がん情報サービス『胃がん 療養』」
「胃がん治療ガイドラインの解説 一般用2004年12月改訂」
日本胃癌学会編 p61-62
②逆流症状(胸やけ)
胃を切除することにより、逆流を防止する弁の働きがなくなってしまうことが原因で起こりやすくなります。胃液や腸液が食道に逆流し、胸やけやみぞおちの痛みなどの症状がみられます。特に胃切除後は、アルカリ性の腸液が逆流することによる胸やけが起こりやすくなります。そのようなときは以下のような対応をすることで症状が和らぐことがあります。
・食事のあと前かがみになったり横になったりするのは避け、座っているか、軽く散歩する
・少量ずつよく噛んで食べる。食べすぎると消化不良を招き、逆流の原因に
・チョコレートなど脂肪の多い食べ物は消化が悪いので避ける
・カフェインは消化液の分泌を促すので控える
・胸やけがするときは、レモンを絞った水や冷たい牛乳を一口飲む
参考 :国立がん研究センター「がん情報サービス『胃がん 療養』」
公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」 p2
「胃がん治療ガイドラインの解説 一般用2004年12月改訂」
日本胃癌学会編 p65-66
③腸閉塞
術後、腸が癒着したところに食べたものが詰まり、便やガスが出なくなったり、吐き気や嘔吐、腹痛などの症状が起こったりするのが腸閉塞です。退院後、あまり動かずに寝てばかりいると癒着が起きやすくなるので、立つ、座る、歩くといった動作を積極的に行いましょう。 また、回復してくると多く食べたくなりますが、それが原因となることも。食事の量は腹五分目くらいに留め、食事回数を多くすることで1日に必要な栄養を補うようにします。
・腹五分目くらいを目安に、少しずつ、ゆっくりよく噛んで食べる
・ヨーグルト等で腸内の善玉菌を増やす
・海藻類、きのこ、ごぼうなど、食物繊維の多い食べ物や、消化しにくいものは避ける
・規則正しい食事を心がける
参考:国立がん研究センター「がん情報サービス『腸閉塞』」
公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」 p30-31
「胃がん治療ガイドラインの解説 一般用2004年12月改訂」
日本胃癌学会編 p61
④貧血
胃を切除すると鉄やビタミンB12が吸収されにくくなり、赤血球の中にある酸素を運ぶヘモグロビンが作られず貧血が起こります。立ちくらみ、息切れ、めまいのほか、頭痛や胸の痛みなどの症状が出ます。 胃を全摘出した場合のビタミンB12の低下は、食事での改善は期待できません。ビタミンB12が低下した場合は、ビタミン剤の内服など医療機関にご相談ください。
・ヘモグロビンの材料となるたんぱく質や鉄を多く含む食品をとる
・鉄の吸収を高めるビタミンCを多く含む食品を一緒にとる
・赤血球を作るのに必要なビタミンB12や葉酸を多く含む食品をとる
・鉄や亜鉛の供給源となる貝類は、食中毒の危険があるのでしっかり加熱する
鉄を多く含む食品の例
参考:国立がん研究センター「がん情報サービス『貧血』」
公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」 p2
「胃がん治療ガイドラインの解説 一般用2004年12月改訂」日本胃癌学会編 p62
参考:国立がん研究センター「がん情報サービス『貧血』」
公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」 p2
「胃がん治療ガイドラインの解説 一般用2004年12月改訂」
日本胃癌学会編 p62
⑤骨障害(骨粗しょう症など)
胃を切除するとカルシウムの吸収が悪くなり、切除1年目までに急速に骨に含まれるミネラル成分の量(骨塩量)が低下します。 その結果、骨が弱くなり、骨折しやすくなる「骨粗しょう症」などを引き起こします。「骨粗しょう症」で骨折すると活動量が下がり、術後の回復が遅れるなどの悪影響につながります。定期的に骨のカルシウム濃度を測ったり、切除後すぐに食事の対策をとったりするなど、カルシウムやビタミンDが不足しないように気をつけましょう。
・カルシウムを多く含む食品をとる
・カルシウムの吸収を高めるビタミンDを多く含む食品をとる
・骨を作る骨芽細胞に働きかけるマグネシウムを多く含む食品をとる
カルシウムを多く含む食品の例
参考:国立がん研究センター「がん情報サービス『胃がん 療養』」
公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」 p2
「胃がん治療ガイドラインの解説 一般用2004年12月改訂」
日本胃癌学会編 p62
その他、胃がん患者さん全般によくみられる症状
●体重減少・食欲不振
●便秘・下痢
●味覚障害
総合監修
利野 靖先生
横浜市立大学附属病院 消化器・一般外科 診療教授
学歴/職歴
栄養指導・食事監修
桑原 節子先生
淑徳大学 看護栄養学部 栄養学科 教授
学歴/職歴