胃がん治療中の
食事と生活
自分の体調変化を理解することが第一歩
胃がんの治療中には様々な症状が現れます。手術後の後遺症を予防し、不快な症状が起こったら少しでも軽減できるよう、事前に対策や工夫について知っておくことは安心につながります。
下の図表は、胃がんの治療中によくみられる症状の例です。まずはどのような体調の変化が起こるのかを知り、理解しておくことが大切です。
一般的によくみられる胃がん治療中の症状
(※)ダンピング症候群
食べたものが胃を切除したことで未消化のまま急に腸に流れ込み、それによって様々な苦しい症状が起こること。
胃がん患者さんの食事の基本的な考え方
治療の効果を高めるためには、必要な栄養素をしっかり摂り、体力を維持し、全身状態を安定させることが鍵となります。まずは1日に必要なエネルギー量とたんぱく質をしっかりと確保しましょう。エネルギーやたんぱく質が不足していると、ビタミンやミネラルをいくら摂取してもその効果は半減してしまいます。
1日に必要なエネルギー量の目安は、簡易的に標準体重(kg)×30~35kcalで求めることができます。活動量が低めの方や標準体重に近い方は30kcal/kg、十分活動量がある方や標準体重より10%以上少ない方は35kcal/kgで計算します。胃切除後の場合は25~30kcal/kgを目安にするとよいでしょう。
※活動量が低めの方・・・部屋で過ごすことが多い、近所での買い物程度
十分活動量がある方・・・通勤を伴う仕事をしている、毎日運動をしている
がん患者さんのエネルギー目安量
標準体重(kg) = 身長(m) × 身長(m) × 22
1日に必要なエネルギー量の目安=
標準体重×30~35kcal
例)身長が160㎝(1.6m)の方の場合 1.6×1.6×22≒56.3 56.3×30~35≒1690~1970kcalが必要なエネルギー量の目安
たんぱく質の必要量の目安は、体重1kgあたり1~1.5gです。体重60kgの方なら、60×1~1.5gで60~90g。魚、肉、卵、豆、乳製品などたんぱく質を多く含む食品は、毎回の食事できちんととるようにしましょう。そのほか、鉄、カルシウム、ビタミンD、亜鉛、ビタミンB12などは治療中に起こる様々な不調の改善や予防に役立つので、積極的に摂りたい栄養素です。
参考:公益財団法人 がん研究振興財団「改訂版 がん治療と食生活」p2-4
病院での栄養相談はご家族も一緒に
栄養補給が大事だからと、体調のすぐれないときに無理に食事をすすめるのは患者さんの負担になります。ご家族や周囲の方は、「本人の意思を尊重し、見守ることも支援の一つである」と理解しましょう。
最近は外科手術をした後の入院期間が短くなり、退院後はご自身の回復状況に合わせて患者さん本人が自分の食事のあり方を探っていくことが必要になります。どういう点に注意しなくてはいけないのか、これまでと同じようにいかないことはどんなことなのか、患者さん本人だけでなく同居するご家族の方も理解しておくと患者さんの負担軽減につながります。病院での栄養相談は、ぜひご家族の方も一緒に受けられるとよいでしょう。
症状別レシピ
①体重減少→体力低下→食欲不振
胃がん治療中の患者さんに最もよくみられる症状は、体重減少と食欲不振です。特に体重減少は胃を切除した方の9割にみられ、10~15%ほど体重が減ってそのまま元に戻らないというケースが少なくありません。胃切除術によって胃が小さくなり、今まで通りの量が食べられなくなったり、胃から出る食欲刺激ホルモンの量が低下し、食欲不振に陥ったりなど、要因は様々です。
また、薬物療法中の方は、食欲不振から体重が低下してしまう人が多くみられます。体がやせると体力が落ちて動くのが負担になり、活動量が下がります。すると食欲がわかず、体重はさらに減少してますます体力が衰えるという悪循環に。体力を維持し、抵抗力を保つことは治療効果を得るためにも重要です。体重減少を防ぐ食べ方のコツや、食欲不振をうまく乗り切る工夫を知り、この悪循環に陥らないようにしましょう。
参考:公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」p10,14
参考:「胃がん治療ガイドラインの解説 一般用2004年12月改訂」日本胃癌学会編 p65-66
参考:公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」p10
②便秘・下痢
胃がん治療中は食べる量が減ったり、精神的ストレスなどで便通が安定せず、便秘や下痢を起こしやすくなります。便秘が続くと腸閉塞の原因にもなり、下痢が続くと栄養素の吸収が妨げられ、体重減少につながります。症状に合わせて適切な食事を心がけましょう。
参考:国立がん研究センター「がん情報サービス『下痢』」
公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」p34, 36-37
③味覚障害
治療中や治療後に味覚や嗅覚が変化することがあります。味を感じなくなる、あるいは薄く感じる、濃く感じる、何も食べていないのに口の中が甘い、すべてが嫌な味に感じるなど、人によって症状の出方は様々です。
抗がん剤などの影響によるもののほか、食事の摂取量が不足し、亜鉛や鉄が欠乏することも一因となります。
参考:国立がん研究センター「がん情報サービス『味覚やにおいの変化』」
公益財団法人 がん研究振興財団「がん治療中の食事サポートブック2020」p44-46
総合監修
利野 靖先生
横浜市立大学附属病院 消化器・一般外科 診療教授
学歴/職歴
栄養指導・食事監修
桑原 節子教授
淑徳大学 看護栄養学部 栄養学科
学歴/職歴